むし歯や歯周病を防ぐための「予防歯科」は、近年関心が高まっています。これまで予防目的の通院は自費診療が一般的でしたが、一部の予防処置は条件を満たせば保険が適用されることをご存じでしょうか?保険適用の対象となる内容や、適用されるための条件について正しく理解しておくことで、必要なケアをより身近に受けられる可能性が広がります。今回は、予防歯科における保険適用の開始時期や適用条件、対象となる具体的な処置について解説します。
1. 予防歯科はいつから保険適用になるのか
予防歯科が保険診療として認められるようになったのは、実はそれほど昔のことではありません。日本の医療保険制度は、基本的に「病気やケガに対する治療」が対象ですが、口腔内の健康維持が全身の健康にも影響するという考え方の広まりにより、段階的に予防処置が保険の対象に含まれるようになりました。
①歯周病予防に関する処置は2000年代以降に拡大
厚生労働省は2000年代初頭から、歯周病予防の観点で「歯周基本治療」の一部を保険適用とし、スケーリング(歯石除去)やブラッシング指導が保険で受けられるようになりました。
➁在宅・高齢者向け口腔ケアは2012年以降に拡充
高齢化に伴い、誤嚥性肺炎予防を目的とした口腔清掃指導などが、2012年頃から介護保険や医療保険の枠組みで拡充されています。通院困難な方への訪問歯科診療の一環として提供されることもあります。
➂2020年代にはフッ素塗布などの一部が保険導入
2020年代に入り、むし歯予防としてのフッ素塗布も条件付きで保険適用となり、予防目的での通院がより身近になっています。
④保険適用の範囲は限定的で「全額保険」の予防処置は少ない
現時点では、全ての予防処置が保険でカバーされるわけではなく、「むし歯や歯周病のリスクが高いと診断された人」に対してのみ保険が使えるケースが多くなっています。
⑤予防歯科全体の保険適用には今後の拡大が期待されている
現在も予防歯科の保険適用範囲は限定的ですが、今後は医療費削減や国民の健康寿命延伸の観点から、今後さらに広がっていくことが期待されています。
保険で予防処置を受けられるかどうかは、医師の診断や患者さんのリスク評価に基づいて判断されます。気になる方は、歯医者での相談が第一歩です。
2. 予防歯科で保険が使える条件とは
予防処置で保険が使えるかどうかは「誰でも対象」とは限りません。医療保険は“病気を治すため”の制度であり、一定の条件を満たした場合にのみ予防処置が認められます。
①歯周病やそのリスクがある場合
歯ぐきの炎症や歯周ポケットの深さなどが確認されれば、歯周基本治療として歯石除去や歯面清掃が保険対象となります。
②むし歯再発のリスクが高い場合
過去に治療を繰り返している方や、唾液・食生活などから再発リスクが高いと診断されると、フッ素塗布や生活指導も保険で行えることがあります。
③口腔機能管理が必要な場合
高齢者や要介護者で嚥下や咀嚼に問題があるときは、機能低下への対応として口腔機能管理が保険に含まれます。
④小児のむし歯予防
乳歯や生えたての永久歯はむし歯になりやすく、自治体によってはフッ素塗布が保険適用となることもあります。
⑤訪問歯科での予防処置
寝たきりなど通院困難な方には、訪問診療での口腔ケアやクリーニングが保険対象になります。
予防処置が保険で受けられるかは、希望だけではなく歯科医師の診断と算定基準によって決まります。不明な点は歯医者に確認することが大切です。
3. 保険適用で受けられる予防歯科の内容
保険を利用できる予防処置は限られていますが、条件を満たせば日常のケアに役立つ内容も含まれます。代表的なものを整理すると次のとおりです。
①スケーリング(歯石除去)
歯ぐきの炎症や歯周病が疑われるとき、歯石や歯垢を取り除くスケーリングが保険対象になります。歯周ポケットに溜まった汚れを除去し、進行を抑える目的で行われます。
②ブラッシング指導(TBI)
歯周基本治療の一環として、歯科衛生士が歯みがきの方法を指導するTBIも保険適用となる場合があります。正しい磨き方を身につけることでセルフケアの改善につながります。
③フッ素塗布
小児やむし歯リスクが高い方には、フッ素塗布が保険で行えることがあります。特に乳歯や生えたての永久歯では初期むし歯予防に有効ですが、適用は年齢や診断基準に左右されます。
④PMTCの一部
専門的な機械的清掃(PMTC)は原則自費ですが、歯周病治療や再発予防の一環として歯科医師が必要と判断すれば保険で行われることがあります。
⑤口腔機能低下症への対応
加齢や病気で噛む力や飲み込む力が弱まった場合、機能検査やトレーニング、生活指導が保険で行われることがあります。
これらの処置は希望すれば誰でも受けられるわけではなく、症状やリスクがあると歯科医師が診断した場合に限られます。